日本酒

【日本酒テイスティング】室町時代の製法が復活!「鷹長 菩提酛」で当時の日本酒を味わう

日本酒造りの基本として「一麹、二酛、三造り」と呼ばれる3つがあります。

これは酒造りの中で重要な工程を表した言葉で、それぞれ以下の内容を指しています。

  • 米を糖化させる麹(こうじ)を作る
  • アルコール発酵に必要な酛(もと)を作る
  • 最終的な日本酒が出来上がるまでの工程

2番目にある「酛」ですが、現在は「速醸酛」と「山廃酛」、そして「生酛」の3種類が流通している日本酒のほぼ100%を占めます。

「生酛」は江戸時代からの伝統的な手法であり、現在は1%程度の日本酒においてのみ採用されている手間のかかるスタイル。

最近は生酛造りを行う蔵が増えてきた印象があります。

そして「速醸酛」と「山廃酛」は明治時代に新しく開発された手法となっています。

それでは、江戸時代以前の日本酒はどうやって造られていたのでしょうか?

その方法の1つこそが、今回ご紹介する「菩提酛(ぼだいもと)」!

令和に蘇った古の造りは、今の我々にどのように感じられるのでしょうか?

想像もできないですね。どんな味がするのでしょうか?

油長酒造の「鷹長」をいただく

「風の森」銘柄で全国的に有名な奈良県の油長(ゆうちょう)酒造ですが、菩提酛を使用した銘柄も販売されています。

ラベルもレトロな雰囲気で、室町時代の日本酒が現代に復活したという面持ちがあります。

レトロラベル好きとしてはつい手に取ってしまうデザインです。

生酒シールを裏に張るくらい、表の菩提酛を強調されています!

特徴的な酸っぱい香りと濃厚な甘み

造りのイメージからして、酸味の強い酒質で軽やかなのかと思っていましたが、このお酒はそんな想像を遥かに超えてきました。

ぶどうの皮のような酸味に加えて、糠床のようにどっしりとした香りが印象的。

通常の日本酒からはあまり馴染みの無い香りで、お漬物を遠くから香っているような感じがします。

ぬか漬けが苦手な私的には強烈な香りでした。

鼻にスーッと抜けていく感じもあるのですが、アルコール系のツンと来る感じではなく、酢に似た香りから来るような印象。酸っぱさの中に、シロップのようにトロけた甘やかな香りも感じられます。

見た目はうっすらと黄色がかっていて、濃厚な印象を抱きます。

口に含むと「意外と甘い!」。香りからの飲食とは異なり、今度は甘みが強く強調されています。最後にぬかっぽさと、紹興酒に似たようなカラメルっぽい香ばしい香りが残ります。

食事に合わせるというより、食前食後酒として飲むシーンが最適かもしれません。

とても個性的なお酒です!

この酸味と甘さがお米から来ているとは、日本酒ってホントに奥深いね。

江戸時代の手法で造られた木下酒造の「タイムマシーン」も非常に甘かったことを思い出しました。

昔の人にとって甘味は今のように当たり前の味覚ではなく、日本酒でしか味わえない特別な感覚だったのかもしれません。

もしかすると日本酒は基本的に甘い存在であり、その反発として新潟を中心とした淡麗辛口ブームが起きたのでは?などと考えてしまいました。いずれにせよ、日本酒の当時の姿を見ることができたような不思議な気持ちになれる一本です!

奈良県の蔵元が復活させた「菩提酛」

菩提酛は室町時代に奈良県で行われていたとされる、伝統的な日本酒造りの方法です。

現在の主流である「速醸酛」と「生酛」の原型ともいえるこのスタイルは、時代の流れとともに姿を消していきました。

しかし近年、古文書に記載されている内容から古の造りを復活させるプロジェクトが奈良県の蔵元約10軒によって開始。室町時代の『御酒之日記』や『多聞院日記』などを参考に、共同で酒母を仕込みそれぞれの蔵で日本酒造りを行っているのです。

文献を参考に当時の造りを再現するとは、ロマンを感じますね。

具体的には造りに使用する米の1割を炊き、残り9割の米の中に埋めて水を加えることで数日後、その水分が乳酸発酵します。この酸っぱい水を「そやし水」と呼び、その酸性を活用して雑菌の繁殖を防ぎながら酒造りを進めていくのです。

顕微鏡もなく、科学技術も発達していなかった時代において、こんな製法を思いついたことが驚きですね。

貴重なはずのお米ですので、失敗すると大きなダメージがあったはず。それでも試行錯誤を続けこの形が出来上がったと思うと、いかに日本酒が魅了的だったのかが分かるかもしれません!

お酒自体が神聖な位置づけをされていたのかもしれませんね。

ラベル情報

  • 醸造元:油長酒造株式会社
  • 蔵元所在地:奈良県御所市
  • 仕込み水:葛城山系深層地下水 硬度250mg
  • 使用米:菩提山町産ヒノヒカリ
  • 麹米:菩提山町産ヒノヒカリ
  • 精米歩合:70%
  • 特定名称:純米酒
  • 日本酒度:−30
  • 酸度:3.6
  • アミノ酸度:2.0
  • アルコール度数:17度
  • 製造年月:2023年3月

日本酒はワインとは異なり、原料である米から製品までの幅が広い特徴を持ちます。ワインであればおそらく500年前も現在も、作り方に大きな変化はないでしょう。複雑な工程を必要とする日本酒だからこそ、「鷹長」のように面白い商品も販売されるのですね。

濃厚旨口を代表するような個性的な一本でした!

改めて日本酒の奥深さに気がついた銘柄だったよ。